ここで、この国のIT業界の特徴である「多重下請構造」と「SES契約」の話をしましょう。
通常、情報システムの構築工程には、大きく分けて「要件定義」「設計」「開発」「テスト」というようなフェイズがあります。
このうち、最も人数が必要なのが「開発」工程です。
最近はツールやフレームワークが発達しているのでそれほどではないかもしれませんが、昔は設計工程の3倍以上の人数が必要なこともよくありました。
顧客から直接構築を請け負った会社がこれらの工程すべてを自社の社員でまかなえればいいのですが、そううまくはスケジュールできません。
従って、人数が必要な工程では「技術者」達を外部からかき集めることになります。
それも一社だけではなく複数社から、さらにその下請け、孫請けからも。
昨今はそのような「多重下請構造」が問題視されることも多くなり、かなり減ってきていると思いますが、それでも多くの下請けソフトウェア企業の仕事の仕方は「SES契約」前提となっているのが現状でしょう。
結果、特に小さなソフトウェア企業の層に「プログラミング職人」のようなITエンジニアが大量に存在することになります。
彼ら「プログラミング職人」は、その経歴上「作る」ことだけに従事しすぎ、どうしても視野狭窄に陥りがちです。
「顧客のビジネス要求」とか、「損益計算」といった、通常多くのビジネスマンが気にすることを知らず(というか、知る機会すら与えられず)、ただひたすらに「設計通りにプログラムを組む」ことに邁進することを求められるのですから、無理もないことだとは思いますが。
反対に、大手Sierには「プログラミングしたことのないITエンジニア」が多数。彼らは本来下流工程を経験することで鍛えられる(と私は思っています)「設計センス」を習得しないままマネージャーになってしまいます。
私はこの構図に、どうしても違和感を覚えるのです。
この構図がこの国のIT業界に与えている悪影響は小さくないのではないでしょうか。