そんなU社長ですが、ある時期から変化が始まりました。
最初に気づいたのは、訪問時に一緒に昼食に出かけた時でした。
お店に入る際、階段を上るのにとても足が辛そうだったのです。
「あれだけパワフルだったU社長だけど、さすがに老いたか…」
電話魔だったU社長からの電話も徐々に回数が減り、訪問時の言動も変わってきました。
なんというか、「理想」を話すのは以前と同じなのですが、それを「現実」に落とし込むための一歩を、まったく踏み出そうとしなくなったのです。
それからさらにしばらく経つと、次第に若い社員達に完全に「おじいちゃん」扱いされるようになりました。
「おじいちゃんは出て来なくていいよ。私たちでやるから」
という感じなのですが、その「やる」がごく普通の日常業務の範囲を一歩も出ることがありません。社員さんですからね。
本来会社経営に必要な中長期プランとか新しいアイデアとか、そういうものが、U社長の老いとともに会社から失われていくのがありありと見て取れました。
売上も年々減少していたのでしょう。
ある日、久しぶりに私の携帯電話が鳴りました。U社長でした。
「大変なことになった。仕入先からも配送業者からも取引停止になってしまった。会社倒産するかもしれない」
そんな内容でした。
私も経営者の端くれです。情を超えた責任というものがあります。
何が起きているのかを理解すると、U社長の会社と取引しているであろう当社の取引先数社に電話し、売掛をつくらないようにアドバイスするなど、「冷静な」連絡をいくつかして、U社長の会社に向かいました。
結果的には民事再生法の適用になったようです。
その後、事務所を引き払ってU社長の自宅に移設したPCサーバの面倒を少しだけ見に行くことがあり、U社長と会ったのはそれが最後となりました。
あまり昔話をしない人でしたが、「終戦当時は満州でタバコを売っていた」ということを聞いたことがあります。
ご存命であれば90歳を超えていることでしょう。
「経営者にも『引き際』というものがあり、それを間違えると悲劇になり得る」
U社長が私に残した、それが最後の教訓でした。